日誌を「読める記録」にする
トレード日誌を書き始めた人が数か月後にいちばんよく口にするのは「書いてはあるが、何を見ればいいか分からない」です。売買ごとに感じたことを自由に書いた日誌は読み返しにくく、複数の売買をまとめて比べるのはさらに難しいものです。日誌が役に立つには、最初から後で分けて見られる形で書く必要があります。つまり、売買ごとに同じ欄を埋め、損益を同じ単位にそろえ、比較に使うタグを付けておくことです。基本の項目と、根拠と結果を分けて書く習慣は「売買日誌の書き方」の記事で扱ったので、この記事はその次の段階に絞ります。損益をリスクの単位に置き換えるRマルチプル、セットアップと感情と計画順守を記録する方法、そして積み上がった記録を週に1回同じ順序で振り返る習慣です。目標は次の売買を当てることではなく、自分が繰り返している失敗を数字で確かめることです。
売買ごとに埋める欄
欄は多いほど良いわけではなく、毎回漏れなく埋められる数でなければなりません。いくつかの欄がよく空くなら、その欄では後で何も分けて見られません。次の欄のうち、エントリー前に埋めるものと決済後に埋めるものを分けておくと、結果を見てから根拠を書き直すことを減らせます。最初の五つはエントリー前に、残りは決済後に埋めます。画面キャプチャを添付できるなら、エントリー直前のチャートを1枚残しておくのもよいでしょう。文字で書いた根拠とそのときのチャートを並べて見ると、自分が何を見たと思っていたかと、実際にチャートに何があったかの差が浮かび上がります。
- 日付・時刻(基準の時間帯をひとつに)、資産、取引所、方向
- セットアップ名:この売買をどの型に分類するか
- エントリーの根拠を1〜2行と、間違いと見なす条件
- エントリー価格、損切り価格、目標価格、数量(許容する損失額を含む)
- エントリー直前の感情の状態
- 決済価格と決済の理由、手数料を引いた損益
- Rマルチプル、計画を守ったか、破ったならどのように
Rマルチプル:損益をリスクの単位に置き換える
損益を金額や%だけで書くと、売買ごとに大きさが違って比べにくくなります。多く賭けて少し稼いだ売買と、少なく賭けて多く稼いだ売買が同じ金額に見えるからです。そこで、エントリー時に決めたリスクを基準の単位1Rとし、結果がその何倍だったかで書く方法がよく使われます。これをRマルチプルと呼びます。ロングなら1Rはエントリー価格から損切り価格を引いた値で、結果のRマルチプルは(決済価格 − エントリー価格)÷(エントリー価格 − 損切り価格)です。ショートは符号を逆にして計算します。たとえばエントリー100、損切り95で入り110で決済したなら、1Rは5で結果は+2Rです。損切り価格ちょうどで出れば−1R、損切りが滑ってより悪い価格で出れば−1.2Rのように−1Rより大きな損失として残ります。−1Rよりずっと大きな損失がよく見られるなら損切りを先延ばしにしているということなので、結果そのものよりそのパターンが先に直す対象になります。手数料はRマルチプルから差し引いて書くか別の欄を設けるかし、どちらか一方に統一します。
セットアップに名前を付ける
セットアップとは「こういう条件がそろったら入る」という自分なりの型です。名前がないと売買がすべてひとかたまりに混ざり、どの型はうまくいき、どの型は損失を出し続けているのか区別できません。名前は短く一定である必要があります。同じセットアップをある日は「押し目」、ある日は「戻り買い」と書くと、後で二つに分かれて数えられます。最初は三つか四つ程度から始め、どれにも当てはまらない売買には「計画外」という名前を別に付けます。この「計画外」の欄にたまる売買が多いなら、それ自体が重要な発見です。セットアップごとにエントリー条件と損切り位置を決めるルールを1行で書いておくと、売買をセットアップに振り分けるときの迷いが減り、同じセットアップ内の売買どうしを比べられるようになります。セットアップを新しく作ったり直したりするときは日付を残し、変更前後の記録が混ざらないようにします。
感情と計画順守を記録する方法
感情と計画順守は日誌でいちばん飛ばしやすい一方で、後でいちばん多くのことを教えてくれる欄です。感情は長く書くより、あらかじめ決めたいくつかの言葉から選ぶようにすると後で数えやすくなります。計画順守は「はい・いいえ」で書き、いいえならどのように破ったかの型を選びます。この二つの欄があれば「不安なときに入った売買」や「損切りを動かした売買」だけを別に集めて見られます。感情の言葉と違反の型は最初から完璧に決めようとせず、数週間使ってみてからよく使うものだけを残し、重なるものはまとめます。次は感情と違反の型の例です。
- 感情の例:落ち着き、焦り、不安、乗り遅れる恐れ、取り返したい気持ち、退屈
- 違反の例:損切りを不利な方向へ動かした
- 違反の例:決めたサイズより大きく入った
- 違反の例:セットアップの条件がそろう前に入った
- 違反の例:目標の前に根拠なく急いで決済した
週に1回の振り返りの順序
記録は振り返ったときに初めて役に立ちます。毎日結果をのぞくと感情が混ざりやすいので、決まった曜日に1回、同じ順序で振り返るほうがよいでしょう。振り返りは結果の良い週も悪い週も同じように行います。良い週だけ飛ばすと、運よくうまくいったルール違反を見逃します。次の順序に従い、最後に来週直すことをひとつだけ選びます。振り返りにかける時間は長くなくてかまいません。欄がきちんと埋まっていれば分けて比べるのにそれほど時間はかからず、長くかかるなら記録のやり方から単純にすべきだという合図です。一度にいくつも直そうとすると、どれも変わらないことが多いからです。
- 空欄のある売買をまず埋めるか「記録漏れ」と印をつける
- 今週の売買のRマルチプルの合計と平均を書く
- 計画を守った売買と破った売買に分け、それぞれのRマルチプルを比べる
- セットアップ別に売買の数とRマルチプルを分けて見る
- 感情別に分け、特定の感情のときに違反が集中していないかを見る
- −1Rより大きな損失があれば原因を書く
- 来週直すことをひとつ決め、日誌のいちばん上に書く
トレード日誌でよくある失敗
日誌を書くこと自体より、続けて正直に書くことのほうが難しいものです。次の失敗は記録を実際より良く見せたり分けて見られなくしたりして、振り返りを無意味にします。特に少ない売買の数でセットアップの良し悪しを判断する失敗はよくあります。数回の結果は相場の状況と運に大きく左右されるので、セットアップの比較は十分に積み上がってから行い、それまでは「計画を守ったか」を先に見ます。また、利益が出たときだけ日誌を開くのもよくある失敗です。損失が続く時期にこそ記録はいちばん多くのことを教えてくれるので、そのときほど欄を漏れなく埋めます。
- 損失の出た売買を後で書こうと先延ばしにし、結局抜かしてしまう
- 結果を見てからエントリーの根拠を書き直す
- 損益を金額だけで書き、売買どうしを比べられない
- セットアップ名がその都度違い、同じ型がいくつもの名前に散らばる
- 数回の売買だけでセットアップが良い・悪いと結論づける
- 勝率だけを見て損益の大きさを見ない
このサイトのトレード日誌で記録する
このサイトのトレード日誌(暗号資産・株式)は、実際に行った売買をエントリーの理由、損切りと目標、感情とともに書いておくツールです。まだ開いているポジションはリアルタイム価格で評価していまの損益を示し、決済済みの売買がたまると勝率と損益比、ミスの種類別の統計を計算します。セットアップ・感情・計画順守別に分けて見る統計、日付ごとの損益を見渡すカレンダー、ファイルへの書き出しなど、上で説明した振り返りに使いやすい機能も備えているので、細かな使い方はツールページの案内に従います。この記事の欄をそのまま移して使いつつ、セットアップ名と感情の言葉を最初に決めておき、毎回同じものを選ぶことが大切です。記録はこの端末にだけ保存されるので、端末を替えたりブラウザのデータを消したりする前には必ず書き出しておきます。実際の売買の前に記録の習慣をつけたいなら、暗号資産デモトレードでの仮想の売買を同じやり方で書いてみるのもよい練習になります。ただし、デモの売買と実際の売買の記録は混ぜず、別に印をつけます。デモの記録では感情の欄が実際より落ち着いて書かれやすいので、二つの記録の感情の分布を比べてみることもひとつの発見になります。
日誌のチェックリスト
売買をひとつ記録するときと、1週間を締めくくるときに、次の項目を確かめます。チェックリストは記録の質を守るためのものなので、結果が良くても悪くても同じように当てはめます。数週間チェックリストを守れば、日誌は数字で分けて見られる資料になっているはずです。チェックリストの中によく守れない項目があるなら、それを記録の習慣で直す最初の対象にします。
- エントリー前にセットアップ名、根拠、損切り価格、許容する損失を書いた
- エントリー直前の感情を、決めておいた言葉から選んだ
- 決済後に手数料を引いた損益とRマルチプルを書いた
- 計画を守ったかどうかと違反の型を記した
- 結果を見た後で、先に書いた根拠を直さなかった
- 週に1回、決めた順序で振り返った
- 来週直すことをひとつだけ選んで書いた
限界と注意事項
トレード日誌は過去の判断を振り返る助けになるだけで、次の売買がうまくいくことを保証しません。記録が積み上がっても相場は記録になかった動き方をすることがあり、少ない売買から出た数字は偶然の影響を強く受けます。また記録は自分が書いた分だけしか正確ではなく、感情や違反の有無を甘く書けば、統計もその分だけ実際から離れます。あるセットアップが過去の記録で良く見えたからといって、これからもそうだという意味ではありません。この記事は記録して振り返る方法を説明したもので投資助言ではなく、どの資産を買えとも売れとも言うものではありません。実際に売買するかどうかとその規模は、各自の状況に合わせて自分で判断してください。
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